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「大丸ラーメンをご存知ですか。
愛知県名古屋市千種区今池某所に位置する大丸ラーメン、その存在はラーメン屋の中でも一線を画し、
多くのファンやバンドマンで日夜にぎわっている今池の名物の一つである。
しかしその存在は決してラーメン情報誌、TV番組で取りあげられる事はなく、今池住民やラーメンファン、
近隣の大学生や打ち上げ終わりのバンドマン達の中では「有名店」なれど、決して「今池表の名物」となる事はなく、
しかしそれでも大丸ラーメンのファンは年を重ねる毎に増加、ほとんどその情報がないにも関わらず
「行列が目印」と夜の今池を徘徊し大丸を探す若者は後を絶たない。いわば「伝説的なラーメン屋」である。


大丸ラーメンに行った事がない方は、貴方の知るありとあらゆるラーメン屋のイメージを捨てるところから
始めて頂けると大丸ラーメンを想像しやすいだろう。
まず営業時間は夜中の2時〜5時が基本(多少どころか相当前後する事も少なくない)であり、
そんなハードな時間ながらお店を只一人で切り盛りする店主は自称「73歳を超えた」小柄な老人である。
「もう70超えとるもんでしんどいです」と言いながらも営業を続けられる店主大橋隆雄さんのインパクトたるや
相当なもので「ラーメンは嫌いです」「料理は何でも沢山作った方が美味しいです」等の名言の他、
50年を超える大丸営業の中で大橋店長が見聞きした今池の風聞、
文化の変遷、そして時事ネタ等、類を見ないその喋り、大橋店長のキャラクターも大丸ラーメンのインパクトを強める一因となっている。


そんな店主が作るラーメン、これが普通のラーメンなはずもなく、他では絶対に食べられない味のラーメンが丼一杯に入っている。
一杯、というのは誇張ではない(何であれば、提供される際にもうこぼれている)。特製麺1.5玉が入れられ、
モヤシが推定一袋以上は入っており、キャベツも芯含め相当入っている。まるで「日本昔噺」に出てくるお茶碗山盛りのご飯のようである。
その下には蒲鉾と竹輪、そしてよくわからないけれども「とても美味しい肉」が入っている。
スープは「昆布出汁に醤油を入れるだけ」と非常にシンプル。
琥珀色の美しい液体に肉の煮汁が溶け出して、非常に多層的かつ印象深い味となる。



恐らく、恐らくはほとんどの人が初見では面食らうだろう。「こんな量食べられるのか」と。
おまけにどっさりと盛られたモヤシは湯通ししただけで味付け等されていない。
お店の独特の雰囲気(カウンター六席のみ、客席側に冷蔵庫が置いてあり、
壁一面には大丸ラーメンを訪れたバンドマン達のバックステージパスが所狭しと貼られており、
店内は独特の緊張感に包まれている)、そして夜中という時間帯も相まって、途方もない非日常感を味わえる事だろう。
だがしかし、恐れるなかれ。勇気を出してカウンターに並べられた中濃ソースや醤油、
各種調味料をモヤシにブッかけて食して頂きたい。絶妙なマッチングと旨さに驚かされるはずだ。
そして食べ終わった際に大橋店長から頂ける「おまけ」、この剛毅な振舞に「利益なんて出てません」と言いながらも
50年間お店を続けられてきた大橋店長の心意気を感じ取る事が出来る。



味について相応のスペースを使って説明しておきながら、残念ながら大丸ラーメンは大橋店長の気分によって
麺の茹で加減から野菜の柔らかさ、肉の味付け等も全てが全て日によってまちまちである事を注釈としてつけ加えておかねばならないだろう。
ちょっとおかしな事を書くかもしれないが、だが、それでも、それでも尚愛されているラーメン屋なのだ。
飲食店としてはあってはならないはずの「味のブレ」、それさえも超越した所に存在する味、大橋店長のキャラクター、
そして「大丸ラーメン」というエンターテイメント。

大丸ラーメンをご存知ですか。
そんな、ちょっと、規格外過ぎるラーメン屋です。」

(text by 舟橋孝裕)